象は鼻が長い?

「象は鼻が長い」には何故主語が2つあるのか? 「象の鼻は長い」とどう違うのか? amteurlinguist が考える日本語の構文

1. El que sabe, ¿saba? 「違いの分かる人の…」

タイトルを見て、えっ? それって間違いでしょ?
動詞 saber の3人称単数系は sabe でしょ?
スペイン語を勉強してるあなたは、そう思ったでしょ? でも、もうかれこれ10年以上も前、スペインのテレビのコマーシャルで、確かにこう言ったのだ。

もっとも最後は尻上がりの疑問形ではなく、尻下がりの「肯定形」・・・ SABA という、どっかの家電ブランドのコマーシャルだった、のです。「知ってる人」は SABA に決める、とでも訳しましょう。
日本でも、それこそ20年以上も続いているコーヒーのコマーシャルがあるでしょう・・・「違いの分かる人の・・・」っていう、アレ・・・ ‘saber’ という動詞にはそういうニュアンスがあるのです。

でそれがヤッカイなことに不規則動詞・・・私は不規則動詞というのは動詞の活用が「規則化」する以前から存在した古ーい動詞なんじゃないかと思ってるんですが・・・
それが証拠に、人間にとってバイタルな、つまり基本的な動作を表す動詞は、殆どみんな「不規則」です。
「居る」「有る」「行く」「来る」「持つ」、そして「知る」・・・

ま、言語学とかを勉強したわけではないので、勝手に思ってるだけですけど。
で、そういう不規則、つまり理不尽な活用をするわけだから、実はネィティブの子供でも間違える。
どこの国でも、ことばを覚え始めている子供は、自分が無意識のうちに理解した規則にのっとって新しいことばを使ってみようとするものだ。
スペインの子供は ¿Sabes …? と聞かれると先ず Sí, sabo … と答える。それを大人がその都度直してやって、子供は saber という動詞の一人称現在形がsé だということを覚えて行くのだ。

そういう「スペイン人でも子供は間違える」不規則活用の動詞・・・という背景があって、上のコマーシャルが面白い。
不規則動詞の saber でも、その活用が不規則なのは一人称現在形や過去形。このコマーシャルで使われている三人称単数の現在は「規則的に」活用させて sabe でいいのを、ワザと「間違えた」かのように saba と言って、それがブランドの名前にひっかけたキャッチフレーズになってるコマーシャルは、実にシャレてると、外国人の私はそう思いました。
ネイティブのスペイン人たちも、そう感じてたような気がする。

ところで saber の現在形くらいならしょっ中使うので、大人になってから間違える人はあまりいないが、普段はあまり使われない動詞、或いは特定の人称や時制でしか使われることが少ない動詞を、そうじゃない人称や時制で活用させる時は、ネイティブの大人でも考えて、えーと、こーだったっけ? などと笑いながら使う事もある。
たとえば caber なんていう動詞を一人称複数の接続法未来で言わなきゃならないとすると・・・えーと、どーだっけか・・・・・・

El que sabe lo que no sabe, es el que verdaderamente sabe.

・・・自分が知らないことは何かを知っている者こそが、本当に分かっているのだ・・・
つまり、知ったふうな講釈はこの辺でやめよう・・・。